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 秋風が吹き始めると月の輝きが冴えてきます。

満月に映しだされた影絵のような文様を、中国や日本では兎の姿になぞらえましたが、

南ヨーロッパでは蟹に見立てるとか。

再生の象徴ともとらえられる脱皮をくりかえして成長し、

月の周期に合わせて幼生を放出するという生態からか、蟹には洋の東西を問わず、

神秘的な霊性を感じさせる伝説や習俗がしばしばみられます。

日本では、社寺の縁起や、厄除けの風習、出産にまつわる故事などに蟹が登場します。

水没した平家の霊が蟹に憑依したとする平家蟹の伝承や、

子蟹たちが親蟹の仇討ちをはたす猿蟹合戦がよくしられていますが、

これには甲羅をまとう蟹の姿が甲冑を身につけた武士を思わせる、

ということも影響しているのでしょう。

工芸意匠としても尚武的な意味合いで武家に好まれたのか、室町時代末期以降、

刀の鍔などの金工品や武家伝来の染織品に優れた作例をみることができます。


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 さて、生物学的にも造形的にも類縁のエビについてはどうでしょう。

脱皮をくりかえして成長し、甲冑を思わせる殻に覆われている点は蟹と同様ですが、

エビの場合は腹が自由に曲がり長い触覚をもつという特徴が、

腰のまがったヒゲの長い老人を連想させることから、長寿の象徴とみなされたようです。

「海老」という宛字は中国にはありませんが、日本では平安時代の『延喜式』や

『倭名類聚集』以来用いられている古いものです。

なお現在、クルマエビ類やコエビ類には「蝦」の字をあて、

イセエビ類には「海老」の字をあてるのが一般的です。

正月の縁起物や、祝宴の食材として伊勢海老を用いるのは、

室町時代後期ごろに成立し江戸時代初頭ころには定着した慣習とみられています。

工芸意匠としても伊勢海老を配した大胆な作例を江戸時代の

金工品や染織品に見いだせます。



 中国においてエビは、力強くはねることから、物事が順調にすすむという

吉祥のモチーフでした。

そのため有田のやきもののモデルとなった明時代末期の中国磁器に

エビを描いたものがあったのでしょう、

出土した初期伊万里にもエビを描いた作例を見出すことができます。

ただしその姿は伊勢海老というよりはテナガエビ。

ほっそりとした腹部は弧を描き、勢い良く水中をはね泳ぐ姿を、

染付の筆致が軽やかに表現した蝦の文様です。


「文・吉田さち子(学芸員)」


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2012.10.02 / Top↑
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